【国内サッカー ニュース】2020シーズン限りで現役を引退した元日本代表FW佐藤寿人(ジェフユナイテッド千葉)に話を聞いた。
2020シーズンを最後に、日本サッカー史にその名を刻むストライカーが21年間の現役生活に幕を下ろした。J1で「161」、J2で「59」。積み重ねたJリーグ通算ゴール数は歴代1位の「220」。その偉業とともに次なるキャリアを歩み始めた佐藤寿人に、自身の現在と未来、さらにストライカーとしての思考回路とビッグファンを公言する「セリエA」「ミラン」「フィリッポ・インザーギ」の関連性について話を聞いた。(聞き手=細江克弥)
■後悔はない。でも、寂しさはある。
――昨シーズン終了後に行われた現役引退会見から約2週間が経過しました。今の心境は?
まだ実感が湧かないところは、やっぱりあります。引退しましたけれど、「サッカーやりたい」という気持ちはまだめっちゃあって。
――それは少し意外です。「完全に切り替えました」と言うと思っていました。
僕の場合、燃え尽きて引退したわけじゃないですから。未練というか、うーん、なんて言うんだろう。「もうサッカー選手じゃないんだ」という気持ちはちゃんと持ちながら、その一方で、単純に「ボール蹴りたいな」とも思うんですよ。「未練」というより「寂しさ」という感じかな。この間なんて、ふと「アマチュアでいいからどこかのチームに入ろうかな」なんて思っちゃいましたから(笑)。
――ぶっちゃけ、まだ「現役でいたかった」という気持ちもある?
全然あります。だって、身体はどこも痛くないし、いろいろな制限がある中でのラストシーズンだったから、思うところはいろいろとあって。僕のキャリアは、スタジアムの中でファンやサポーターの力を感じ続けた21年間でした。でも、昨シーズンは皆さんから声をかけてもらうことも、こちらから「ありがとう」と言うこともできなかった。正直、そんな状況で引退していいのかという葛藤はあったので、引退という決断に対する後悔はないけれど、そういう感情が“寂しさ”として残っているのかもしれませんね。
――昨年の秋に話を聞いた際には、「真冬のシーズン始動日にボールを蹴ると寒さで足が痛い。それがイヤで、毎年『もうやめたいと思う』」と笑いながら話していたのが印象的でした。
それがなくなるのは、ちょっと嬉しいかな(笑)。でもほら、昨シーズンはめちゃくちゃイレギュラーなスケジュールで、12月の終わりまでリーグ戦があったじゃないですか。あんなに寒い時期までやったことなかったから、「最後の最後になんで?」と思いましたよ。めっちゃ寒くて、スパイクでボールを蹴るとやっぱり足が痛くて。
――それでも、秋の時点ではまだ引退を考えていなかった。
少しモヤモヤするところはありました。あの時点で試合のメンバーに入っていなかった自分は、監督の目指すサッカーに自分が合っていないと素直に感じていたし、チームの戦力にもなれていなかった。もう1年続けたとしても、ジェフの力になれないだろうなと。
――ピッチに立つだけが“戦力”じゃないということも理解した上で、ということですよね。
もちろんです。シーズンが始まる前に、みんなの前で話したんです。J1昇格に向けて「要所要所で力になりたい」と。シーズンを通して主役になれるなんて思ってなかったけれど、どんな状況でもチームの力になりたいという気持ちだけはものすごく強かった。ただ、試合にまったく絡めないままひたすらトレーニングを続けていると「何のためにやってるんだろう」と思うこともあるんです。昨シーズンに関しては、チームが5連戦を戦っているのに、自分は練習試合すらできないという状況で。
――目的を持つことが難しかった。
負荷の高いミニゲームばかりやっていたから、逆に身体は動いたんですけどね。昨シーズンの1年間でめちゃくちゃ走ったからむしろ「全然走れるな」と思っていたくらいで、無意識のうちにいつも先頭を走っちゃうんですよ。だから、トレーナーにはいつも「寿人さん、後ろを走って!」と注意されていたくらいで。
――そういうところが寿人さんらしい。
ハハ(笑)。そうかもしれませんね。
■ストライカーは“感覚”じゃない。
――今後についてはどのようなイメージを?
やっぱり、サッカーに携わっていきたいと思っています。身体が動くうちに現場に入って、自分が受けてきた指導や技術的な部分を伝えたい。現時点では指導者B級ライセンスまで持っているので、今年はA級ライセンスの取得に挑戦するつもりです。でもそれだけじゃなく、“現場以外”のところ、例えばクラブマネジメントなどもしっかり勉強しなきゃいけないと思っています。
――解説者としての仕事も、“勉強”の一つということですよね。
そうですね。自分が持っているもの、考えていることを言語化して伝えることはものすごく大事なので、そういう意味でもいい勉強になるんじゃないかと思っています。自分がキャリアで培ってきたものをしっかり伝えたいし、ストライカーとしての自分は“育ててもらった”という意識がかなり強いので、今度は自分が指導者になってストライカーを育てたいなと。
――Jリーグ通算220得点(歴代1位)を記録したストライカーとしての才能は、“育てられた”という認識なんですか?
完全にそうです。間違いなくそう。今までお世話になった指導者の皆さんと出会ってなければ、たぶん僕なんてプロにすらなれていないと思いますから。
――本当に?
本当に(笑)。いや、才能なんてまったくないですよ。だからこそ、僕にとっては教わったことを自分なりに体現して結果を残したこと、それによって蓄積したストライカーとしての理論がとても大切で、それを今後の自分にとっての大きな武器にしなきゃいけないと思っています。指導者として伝えたいのは、まさにその部分。点を取るための理論を具体的に落とし込むことができれば、ストライカーを育てることは可能だと思いますから。
――「ストライカーは感覚」とよく言うけれど、実はそうじゃない。
感覚でやっていたら、点なんて取れないと僕は思います。大切なのは再現性と、確率を上げるための工夫。ゴールを守ろうとする相手を上回るためには、常に頭で考えてそれを体現しなきゃいけない。「何も考えずに打ったらゴールに入りました」というのは、僕の感覚では長く続くものじゃないんです。なんでそうなったのかを自分で説明できるようにならないと、安定してゴールを奪えるストライカーにはなれない。
――寿人さんが以前から大ファンであることを公言してきた元イタリア代表FWのフィリッポ・インザーギは、それこそ“嗅覚”を高く評価されたストライカーでした。彼のプレーに対しても、ストライカーとしての“理論”を見いだしていた?
もちろんです。ほら、いつかのチャンピオンズリーグ決勝(2006-07)でミランとリヴァプールがやったじゃないですか。あの試合の先制点はアンドレア・ピルロのFKをピッポ(インザーギの愛称)が胸に当ててコースを変えたんですけれど、あれ、普通のFWならGKが弾いたこぼれ球を狙いますよね。でもインザーギにはたぶん最初からFKの軌道上に走って「あわよくばコースを変えよう」という考えが頭にあった。それを体現したからこそのゴールだったと僕は思います。あのゴールはピッポそのもの。そういう頭の回路を持っているかどうかで、あの大舞台で点を取れるかどうかが決まるんです。
――佐藤寿人にとって、フィリッポ・インザーギとは。
“師匠”ですね(笑)。本当にずっと、僕はピッポの背中を追い続けてきましたから。ピッポは2009年にプロ通算300得点を記録して「300」という数字が入ったユニフォームを掲げているんですけれど、実は、僕もずっとあれをやりたかったんです。でも結局できなかったから、やっぱり師匠はすごいなと改めて思います。
■僕にとって、セリエAは特別。
――さて、今日はこれからセリエA第16節のビッグゲーム「ミラン対ユヴェントス」で解説を担当されます(取材日:1月7日)。
約2年ぶりの解説なので、少し緊張しています。選手としてピッチレベルでチームメイトに伝えることには慣れているけれど、画面を通じて、試合を観ている人に言葉で伝えることは本当に難しいですよね。だから解説者の皆さんは本当に頭がいいなといつも思うんですけれど、個人的には戸田和幸さんの解説が好きなので、今日は戸田さんのように準備だけはしっかりとしてきたつもりです。
――今シーズンのミランの好調を、1人のミラニスタとしてどう見ていますか?
もちろん嬉しいです。でも、やっぱり高い目標を持たなきゃいけないクラブだと思うので、まだまだこれからだと思います。“いい選手”はたくさんいるけれど、かつてのような“トップ・オブ・トップ”が集まるチームじゃない。あの頃を知っているミラニスタとしては、やっぱりチャンピオンズリーグ優勝を狙うミランをまた見たいですよね。ただ、難しいサイクルに入っているとはいえ、少しずつ光が見えてきていることも間違いないと思いますから。10年我慢して、やっと……と、世界中のミラニスタはみんなそう思っているんじゃないかな(笑)。
――ユヴェントスの監督を務めるのがアンドレア・ピルロ。好調ベネヴェントを率いるのがインザーギ。ナポリの指揮官はジェンナーロ・ガットゥーゾ。オールドファンにとっては面白い時代になってきましたね。
ホントにそうですね。その世代の名選手が監督になると聞くだけでワクワクするし、特にピッポがセリエBでベネヴェントを率いると聞いた時は、セリエBの日程を全部調べて、本当にベネツィアまで観に行こうとしたくらい興奮しちゃって。
――それはすごい(笑)。
だって、やっぱり生で観たいじゃないですか。可能なら練習も観たい。ベネヴェントに“ピッポが好きそうな選手”がいると、それだけで嬉しくなっちゃうんですよ。
――寿人さんにとって、やっぱりセリエAは特別なんですね。
セリエAを見て育った世代ですからね。もちろんどの国のリーグも魅力的で素晴らしいけれど、やっぱりイタリアのサッカーは特別という意識は自分の中にあります。これから解説を担当させてもらうミランやユヴェントスのようなビッグクラブだけじゃなく、それぞれのクラブにいろいろなキャラクターがあって、カルチョの深い“歴史”を感じられるというか。あ、そうそう、イタリアに行った時に高速道路のサービスエリアでセリエCのチームのバスと遭遇したことがあるんですよ。そこで選手と一緒にワインを飲んだことがいい思い出です。あの時も何となく、カルチョの歴史を感じましたよね(笑)。
――なるほど(笑)。
だから、他のリーグと比較して人気がどうとか、そんなこと関係ないくらいのセリエAファンなんですよ。セリエAを見て育ってきたから、ずっとセリエAが好き。特にミランを、ずっと追いかけていきたいと思っています。
/#佐藤寿人 が”FW目線”で解説🎙
「お互いの狙いとするプランが見れた好ゲーム!」
\解説を終えた佐藤寿人さんにインタビュー🎤
試合の感想と見どころは⁉🇮🇹セリエA第16節
🆚ミラン×ユヴェントス
📱見逃し&ハイライト視聴は #DAZN👉https://t.co/5HoqBO0eu6#SerieADAZN pic.twitter.com/AjN90V8nLu— DAZN Japan (@DAZN_JPN) January 7, 2021
【セリエA第16節・ミラン vs ユヴェントス】
■解説:佐藤寿人、実況:八塚浩
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