2013年10月19日 (土)開催 | 基盤教育研究分科会

コミュニティの変革とデザイン:越境的な学びの可能性

 

                          レポート:関西学院大学 松本雄一

 10月19日(土)、明治大学駿河台キャンパス紫紺館にて、「コミュニティの変革とデザイン:越境的な学びの可能性」というタイトルで、「トピックわ談会」が開催されました。DSCF1929.JPG今回の参加者は14人でした。

最近よくきく「越境」「越境的学習」。企業や業界の枠を越えて、人がつながりあったり学んだりすることですねDSCF1908.JPGしかしわかったようでよくわからない概念でもあると思います今回はその越境的学習について、提唱者のエンゲストロム(Engeström)の考え方を中心にご講義いただきました。講師は駿河台大学現代文化学部准教授の青山征彦先生と、青山学院大学社会情報学部准教授の香川秀太先生です。

■越境とは何か
 最初は青山先生が理論的視座についてご説明いただきました。青山先生DSCF1915.JPGは越境という言葉はわりと拡大されて解釈されているものの
、もともとのエンゲストロムの提唱した概念はすごく地味だというお話から始まりました。その研究は船室のタイルを貼る作業を観察したもので、部品チームと組み立てチームががんばって協力して問題を解決した、というものでした。あれ?学習は?ともかく我々が思っている越境とは、確かにだいぶ違いますね。
 エンゲストロムはいわゆる「活動理論」の中興の祖として知られているわけですが、「学習ってなんだ?」「活動ってなんだ?」と
考えを深め、「ここには学習は生じているけど、普通の学習じゃないな」と気づいたというのです。我々が考える学習というのは何にせよレベルが「上がっていく」、文字通り垂直的な学習なのですが、もう1つの側面があると先生は教えていただきました。つま問題解決の過程でお互いの相手のことを知る、境界を横断することで異なる学びが生まれるとし、それを「水平的学習」としたわけです。複数の組織や共同体で他者とふれあい、気づきが生まれ、ものの見方が変わったりする、それは垂直的学習ではとらえきれない
、もう1つの学習の側面であり、それが越境において大切なことであるということです

なるほど!そしてこのように考えると、越境的学習と実践共同体、状況的学習などの理論との接近はより容易になりますね。
 そして青山先生はそこから、現代は越境が迫られている(もっと社外に出てどんどんつながれ学べ)としながらも、そんなに簡単なも
のではないとしています。越境オールオッケーみたいな考えではなく、越境をどう拡張するか、境界をどう問い直すかという視点が重要であるとお話しになります。境界は問題や反発に出会ってはじめて顕在化する、越境によるアイデンティティの変容が生じる、という視点は新鮮そのものでした。そして越境とは逆に「境界を生成する」ことも視点としてもつべきであるとご指摘になりました。青山先生は境界生成の問題を、情報やそれに対するアクセスをどうコントロールするかという観点でとらえ、ご研究を進めておられます。

それも含めて境界を生成する、境界を越えるという一連の現象を、境界をめぐる実践=バウンダリー・ワークとしてより多面的に考える必要性をご教示いただきました。まさに目から鱗のご指摘でした。

■越境的対話の実践
 続いてご登壇された香川先生は、より具体的に越境の過程で何が起こっているのかをご教示いただきました。越境する過程で人々は
どんなことを経DSCF1919.JPG験するのか、また境界を乗り越えるためにどういった「仕掛け」を設け、工夫すればいいのか、という問題提起がなされました。確かに気になる問題です!
 先生は素朴なよくある問題からお話を始められます。それはたとえば研修のあとに「ここで学んだ何かを持ち帰ってください」と講
師の先生方にいわれたが、自分の会社で何も実践しなかった、という例です。まさに"越境あるある"ですが、ここには研修と職場の境界が存在していて、このような問題を境界問題といいます。そしてこういう場合には学習における「転移モデル」、研修から職場へ知識を直線的に転移する、という考え方に立脚しているのだとおっしゃいます。その上でもう1つの「越境モデル」、すなわち研修と職場をできるだけ重なり合うようにし(現場のことをよく知っている人を担当にするとか)、両方が変化するようにしたり、両者のギャップを変化の原動力にしたりするという考え方が重要であるとされています。我々もなにげに「転移モデル」、越境して外の知識を「持ち帰る」的な考え方をすることがありますが、そうではないんですね。

■越境のプロセスと越境的対話の仕掛け作り
 次に香川先生は越境がなぜ難しいのか?という問いに対して、「境界は克服すべき問題であると同時に、必要なもの」という「境界
の根源的矛盾」があるからだとご指摘になられます。確かに何もかもが越境してしまうとどこからどこまでが自分なのかわからなくなりますよね。越境とはこの境界の根源的矛盾に挑戦する実践であり、多様性や差異を前提にしつつ、しかし分裂することなく、いかに協働していくかが重要な課題の1つであるとされています。青山先生のご主張とも通じますが、越境は単純にオールオッケーなものではないみたいですね。
 その上で香川先生は越境のプロセスとして文脈間の横断→文化的動揺と抵抗→異文化専有と創造→知のローカライズ→越境的対話の
日常化という5段階モデルをご提示になったあと、越境的対話をどのように促進する仕掛けをつくっていくかという問題に入ります。

そのような取組は越境実験というのですが、「日頃違う立場の生活者や労働者が、何らかの境界問題の乗り越えを図るべく、同じ場に集まって、情報交換やアイディアを出し合い、改善策となる新しいツールやコミュニティ間の関係性システムを共同で創造する」ことだそうです。さまざまな事例でご説明いただき、その取り組みの重要性がよく理解できました。

■ソーシャルセラピーのエクササイズ
 ここでエクササイズが入りました。それは2人組になって
「3分くらい架空の自分を語り、相手の人は質問して、それに対してどんど
ん架空の答えを返していく」というものでした。このエクササイズ自体も楽しかったのですが、香川先生のご示唆は、「日頃の業務の中で創造的とか、自分の枠の解放とかいうと難しいが、演技や遊びとなれば、人はとたんにそれが可能になる」というものでした。筆者もすっかり悪のりして「石油王にオレはなる」的な楽しいストーリーを作ってしまったのですが、このような越境的実践もあるのだなと感心させられました。「双方を近接させ重なり部分を増やして、双方を変革していく」という越境モデルの可能性を感じました。DSCF1926.JPG

 実践的な問題に由来する生産的な質疑応答のあと、まとめとして堤先生が、越境は成人学習やマネジメントとも関わりがある事象であること、今はバウンダリー・ミッシング(今まで敵だった人たちと急に関わりができたり)もあるよというご指摘があり、研究会は終了いたしました。

 今回のご発表はすごくアカデミックで、研究者にとってはすごく助かる内容でしたが、同時に常に具体的で、現場に密接に結びついていて、日頃の見方を考えるようなものでした。そして同時にこれを持ち帰って終わるのではなく、現場での知の創造に結びつけるような境界実践を起こすことが大事だと感じました。
 青山先生、香川先生、貴重なお話をありがとうございました!

開催日 2013年10月19日 (土) 14:00~17:00
学習テーマ

昨今、特定の組織集団内に閉じた実践から、多様な組織集団が、互いの境界を越え、活発に交流し、新たな実践、価値、コンセプト、そして組織間の相互変化を生み出していく「越境的な学び」が、ますます求められるようになっています。そうした越境的な学びをテーマにした、ユニークな実践や理論研究を集めた、『コミュニティの変革とデザインの心理学:越境論の展開と越境知の創造』(仮)が、新曜社より刊行されます。今回は、本書の発刊を記念して、越境論の魅力をお伝えしたいと思います。

講 師 駿河台大学 現代文化学部 准教授 青山征彦氏 / 青山学院大学 社会情報学部 准教授 香川秀太氏
会 場

明治大学 駿河台校舎 紫紺館 S4会議室
千代田区神田小川町3-22-14
http://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/suruga/access.html

定 員 30名 ※最低催行人数:5名 開催1週間前までにお申込人数が、最低催行数に満たない場合は、中止とさせていただきます。 予めご了承ください。
参加費 会員:¥2,000-(税込)   非会員:¥8,000-(税込)
開催概要

近年、社会変化の激化やコミュニティの多様化、従来的な縦割り型や官僚型の手法の行き詰まりなど、既存の方法では立ちゆかないという指摘が、様々なところで起こっています。
越境的な組織創り、コミュニティづくり、ネットワークづくりは、こうした課題を検討したり、乗り越える際に、有効な方法論です。
実際、現在まで、企業、医療、教育のフィールドで、様々な具体的な越境的な組織変革やコミュニティ・デザイン、そして諸研究が行われており、現場の切実な問題の改善や、新たな価値・実践の創出、研究分野の開発といった成果を出してきており、社会、組織、コミュニティ、そして研究のあり方について、次代の新しい方向性を示しています。
 本セミナーでは、主に、実際の越境的な組織変革やコミュニティ・デザインの具体的な事例を示しつつ、越境論の理論的なポイントやその可能性についてお話したいと思います。
また、越境論や組織・コミュニティ論に関する、より専門的な理論的議論についても、少し触れていただきたいと思っています。
御自身の組織やコミュニティを振り返ったり、これから変革やデザインにとりくんでいく際のヒントにしていただいたり、或いは研究を進める際の知見を手に入れていただければと思っております。

【導入】
 ・越境論のポイントとは?
【事例】
 ・企業、医療、アートないし教育分野の実践から、それぞれ代表的事例の紹介
【展開】
 ・「学習の転移」の壁を乗り越えるには?:代替案としての越境論
 ・知識創造を刺激する異文化接触
 ・良いことばかりではない越境:越境の難しさや、問題点とは?

方法としては、講義、ディスカッションを織り交ぜて行います。参加者の方御自身の取り組み等も、御紹介いただけますと幸いです。

■参考書籍
『コミュニティの変革とデザインの心理学:越境論の展開と越境知の創造』(仮)
青山征彦・香川秀太・内橋洋美・堤宇一、ほか著  新曜社

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