2013年6月 1日 (土)開催 | 基盤教育研究分科会

人材開発白書2013 戦略実行力-組織の壁とミドルの巻き込み力

わ談会参加レポート 熊本大学 北村士朗
わ談会でもすっかりおなじみになった、(株)富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長 坂本雅明氏から人材開発白書の報告が行われた。各年の要約は同研究所のwebサイトで閲覧することができる。今年のテーマは「戦略実行力」 -組織の壁とミドルの巻き込み力- であった。
◆なぜ戦略は実行されない?
ここ数年の人材開発白書では「業績=戦略(年度の方針や施策)×実行」とした上で、業績が伸びない原因のうち戦略自体の是非はあえて問わず、戦略実行力について調査と提言を試みている。 現場メンバーに戦略を実行させるには大きく「促進させる」「足かせを外す」の2つのアプローチが考えられる。
今年の人材開発白書では後者の「足かせ」、つまり「現場の戦略実行の足を引っ張っているのは何か?」「その足かせを外すにはどうすればよいのか?」という点について、調査・分析が行われた。
今回の焦点は「協力不可欠な他部門・他社との調整の欠如」である。 同研究所では多組織との連携を構築するときの障害を探るべく、組織の壁の形成要因を分析した。
「相互の方針のずれ」「相手組織の能力・人手不足」「自己の連携構築力不足」「部門重視の制度」「心理的なわだかまり」の5つに集約され、その中でも「相互の方針のずれ」「相手組織の能力・人手不足」が比較的大きな障害になっているという結論が導かれた。 また、もう一歩踏み込んだ分析から職種毎の傾向の違いについても明らかになった。
◇営業・販売では、隣の営業課との連携といった職種内連携よりも、技術との連携といった職種間連携のハードルの高さが著しいが、逆に技術・SEは職種間連家より職種内連携の方がハードルが高い。
◇相対的に、研究・開発は「相互の方針のずれ」「相手組織の能力・人手不足」を障害に感じているが、生産・保守・サポートは「自己の連携構築力不足」を障害に感じている。
◆ミドルマネージャーの課題「ミドルの巻き込み力」
坂本氏は求められる「ミドルの巻き込み力」として、以下の3点を提言している。
1.よく知らない相手に対してこそ、臆せずに一歩踏み出す
2.時間的・空間的広がりから相手にとっての利益を考え、説明する
3.信頼を得るべく、普段から関係性に投資する
「1.よく知らない相手に対してこそ、臆せずに一歩踏み出す」は、いわば「まずは頼みに行ってみよう」という提言である。
連携する相手は自らとは異質な方が価値を産み出しやすいが、そういった相手とは関係が薄いことから、どうしても「どうせ断られるだろう」と及び腰になってしまう。これは組織でも個人でも一緒だろう。他者は自分が思っているよりも協力的だというコロンビア大学の研究結果からも明らかなように、「どうせ断られるだろう」は単なる思い込みである可能性は高い。あまりあれこれ思い 悩まずに、まずは頼みに行ってみる、ということが重要ということになる。 ただし、当然のことながら、関係の薄い相手にやみくもに頼んでもうまくいかないことは想像に難くない。
そこで、第2の提言「2.時間的・空間的広がりから相手にとっての利益を考え、説明する」が必要となってくる。こちらは「視野を広く・高く持って、相手の利益を様々な面から考えろ。自分の都合や利益ばかり考えるな」という提言である。
相手と自分双方にとってのWin-Winを見いだすには、より長期のより根本的な目的、例えば企業や事業部の理念、社会的意義などまでさかのぼって(=時間的な広がりを持って)策を考えること、広い視野から影響先を含めた全体を考えて(=空間的な広がりを持って)判断することが求められるというのが、この2つめの提言である。
そして最後の「3.信頼を得るべく、普段からの関係性に投資する」は、「日頃から信頼を得るための行動を取れ」という提言である。 他組織を巻き込んで成果をあげている課長の大きな特徴の一つとして「他部門からの依頼に積極的に応えている」が挙がっていた。つまり、日頃から、繁忙や目先の利害に囚われすぎることなく、他者との関係性に時間や労力を割き、他者と連携する際のベースとなる信頼を獲得できている、ということである。
◆人材開発部門の役割
「ミドルの巻き込み力」を向上させるために、人材開発部門には何ができるだろう? 坂本氏は次の2つの役割を提示した。
1.知り合う機会を工夫する
2.意図的に連携経験を積ませる
「1.知り合う機会を工夫する」は最初の一歩を踏み出しやすくするために、相手を知る機会、様々な人々と知り合う機会を提供する、ということである。 ただし、「新たな、特別な場は必要ない」と坂本氏は強調していた。例えばある会社では、従来行っていた職場懇談会を組織横断に拡大し連携してもらいたい人同士が親しくなる場を作る、職場の問題対処のためのチームミーティングに組織間連携しないと対処できない、かつ急務な問題を投げかける、といったことを事業部長が行っているという紹介があった。
次に「2.意図的に連携経験を積ませる」ことによって、連携に関するスキルを磨き、実際に役立つネットワークを構築する機会を提供することである。
そして、人材開発面で留意すべきは、課長が部長になる前に積むべき経験である点であると坂本氏は主張していた。その理由は、課長は部長に依頼すれば利害調整の場から逃げられるが、その課長が部長や事業部長になったとき、より複雑な利害関係の中での決断を強いられ、連携に向けての手腕を問われ、そしてそこからは逃れられないことにある。従って、部長になってからでは遅い、ということになる。
坂本氏は最後に「ミドルマネージャーの3つの課題、人材開発部門の2つの役割だけが重要とは言わない。だが、これも重要だろう」とした上で、「人材の流動性が増し、M&Aが増えると、『自分の会社に自分が知らない人がいる』ことが増えている。そうなるとウェットな人間関係を構築する暇を与えられない。我々に求められるのは、ウェットな人間関係なしにものを頼めること。人間関係ですべてが解決できる、という考えからは離れなければならないだろう」と本報告を締めくくった。
◆連携の重要性
以下は報告者の所感である。 今回報告された、人材開発白書2013では「戦略実行の阻害要因のひとつは組織の壁である」という点を柱に、「組織の壁」を超えるための他者との連携について考察・提言されている。まず、その連携がどのように役立ちそうかを考えてみたい。
クレイトン・クリステンセンは「イノベーションのDNA」(翔泳社、2012)の中で、イノベータが共有して有している5つのスキルの中に「関連づける力」すなわち誰もが考え無かったモノ・コト同士を組み合わせた新たな価値を産み出す力と、「ネットワーク力」すなわち多様な背景や考え方を持つ人とのネットワークを通じて、アイディアを見つけたり試したりする力を挙げている。
また野中らはビジネスモデルイノベーションを起こすために必要な組織基盤のひとつとして、知の共有・協創・蓄積を行えるようなパートナーネットワークを挙げている。(「ビジネスモデルイノベーション」東洋経済新報社、2012)
一方、自動車メーカーにおいて部門間の関係性を改善することで生産性を大幅に向上させることに成功した舘岡は、自己の利益の最大化のために、他者を支援し、他者をして自身を支援してもらうことが有効であることを説いている(「利他性の経済学」新曜社、2006)。
これらに見られるように、イノベーティブなビジネスを興して行く上でも、現在のビジネスの生産性向上・利益最大化の上でも、本白書で述べられている他者との連携は重要であるといえよう。それらはまさに戦略の実行に直結するはずだ。 「他者との連携が大切」誰もが言うことであり、言われれば誰もが当たり前だと思うだろう。しかし、坂本氏の指摘のとおり、いざ実際に行おうとすると、意外と難しい。本白書はその「当たり前そうだが難しいこと」についての「では、どうすればよいか」という具体的な提言である。 そして、人材開発部門・担当としては、本白書での2つの提言のような「場」「機会」を提供することで、将来を担うミドル層に他者との連携という戦略実行上重要なスキルやネットワークを身につけさせておきたいものである。  以上
開催日 2013年6月 1日 (土) 14:00~17:00
学習テーマ

組織の壁を形成するものは何か。また、その壁を乗り越えて周辺組織を巻き込むためにはミドルには何が必要か。

講 師 株式会社富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長 坂本雅明氏
会 場

明治大学 駿河台校舎 紫紺館 S4会議室
千代田区神田小川町3-22-14

定 員 40名 ※最低催行人数:5名 開催1週間前までにお申込人数が、最低催行数に満たない場合は、中止とさせていただきます。 予めご了承ください。
参加費 会員:¥2,000-(税込)   非会員:¥8,000-(税込)
開催概要

戦略は策定しただけでは何も変わりません。実行されてはじめてその果実を手にすることができます。そして、実行を阻害する要因のひとつが、組織間連携の欠如です。
前々回の調査(人材開発白書2011)では、組織間連携がなされていないことがメンバーの足かせになっているという状況が浮かび上がり、前回の調査(人材開発白書2012)では、多くの事業トップがこの連携不足を問題視するとともに、特にミドルが周りを巻き込めなくなったことを危惧していました。
他組織を巻き込むことに、なぜミドル層は躊躇するのか。どうすればミドル層の巻き込み力が強化されるのか。今回実施した1,023人(22社、45ビジネスユニット)の定量調査結果をもとに考えます。

1)戦略実行における課題
 -何が実行を阻害しているのか(今回調査の位置付け)
2)組織の壁の形成要因
 -職種間連携を構築するときの障害
3)組織の壁の形成要因_職種別分析
 -主要5職種の特徴と課題
4)ミドルマネジャーの課題
 -ミドルの巻き込み力を考える

★調査結果の説明とデータに基づくディスカッション、自己診断やグループワークを交えながら進めます。

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