『実践共同体の構築 』参加報告 (レポート HRDM会員 河面 徹)
7月21日(土曜日)、「トピックわ談会」が開催されました。参加者は男性17名、女性5名で、開催場所は明治大学駿河台キャンパス紫紺館でした。
今回のテーマは『実践共同体の構築 - 現場での自立的な学びを考える』でした。講師は関西学院大学教授(経営学博士)の松本雄一先生でした。松本先生は、人々が組織の中でどのように技能を形成していくのか、ベテランの人は新人の人に比べてどこが優れているのか、新人の人はどのようにして一人前になっていくのか、そして組織はどのようなメカニズムでそのような技能形成を支えているのか、など「経営組織における技能形成」の研究をされています。
松本先生と初対面のご挨拶をさせていただいた際には腰が低くもの静かな方だとの印象を受けました。しかし、先生のお話しが始まると実に軽妙な語り口で、時折発せられるブラックジョークもあいまって、私には取っ付き難かった「実践共同体の構築」というテー
マにも関わらずぐいぐい"松本ワールド"に引き込まれてしまいました。「トピックわ談会」の3時間がアッという間に過ぎた感じでした。
講義が始まる前と後とのギャップに驚きましたが、それも松本先生の緻密な計算なのでは、と感心した次第です。
松本先生のお話しは以下の順番でした。
第0パート: 実践共同体とは何か
第1パート: 社内で実践共同体を形成して学ぶ
第2パート: 社外で実践共同体を形成して学ぶ
第3パート: 地域で実践共同体を形成して学ぶ
実践共同体とは何か
まず、実践共同体を語るには以下の3つの立場があるとのことでした。
ひとつは「学習の共同体」と称される"知識や技能が埋め込まれ、参加することで学ぶことができる"実践共同体で、Wengerがこの実践共同体の生みの親だそうです。
ふたつ目の立場は、「イノベーションの共同体」と称される"公式の組織の中では変わることが難しいのでインフォーマル・グループにより学習やイノベーションにつなげる"実践共同体で、Brown and Duguidにより提唱されました。
みっつ目の立場は、「知識創造の共同体」と称される"公式と非公式の組織とが二重に編み込まれた"実践共同体で、後年のWengerにより提唱されました。
実践共同体は、教えあい、学びあうことでそこに属する人々がお互いに成長できると同時にネットワークを広げることができるという特質を持っています。
社内で実践共同体を形成して学ぶ
介護事業者により形成された「学習療法の実践」の勉強会が例に取り上げられました。この実践共同体においてはコミュニティーの広がりや介護に関する交流が進んだ結果、学習療法が施される患者もさることながら、介護スタッフも元気になったとのことです。
この例を参考に「ディスカッション1」として以下のテーマでグループ討議が行われました。
「社内で実践共同体を作るときの障害となるのは何なのか。また、それを克服するにはどうしたらよいのか」
グループ討議の結果をまとめると以下のとおりになりました。
障害として考えられるのは、
・社内では業務の遂行が最優先となるので時間や職制上の制約が障害となる
・活動をするうえでの場所や資金が障害となる
・結果を出すことが求められることが障害となる
・会社の業務との関連性をどのようにするかが障害となる
などの意見が出されました。
一方、それを克服するには、
・まずはやれるところから実践共同体を形成する
・草の根的な活動、例えば「タバコ部屋」でのコミュニケーションなどを参考に実践共同体を形成する
などの意見が出されました。松本先生からは、「実践共同体は常にジレンマを抱えている。そのジレンマをマネージすることで実践共同体を大きくすることができる。また、成果につなげつつ参加者が楽しめるテーマを選定するなど、リーダーがいかに実践共同体をマネージするかがポイントとなる。」とのコメントがありました。
社外での実践共同体を形成して学ぶ
北九州マイスター「匠塾」や新潟県央マイスター「燕市磨き屋壱番館」、「三条鍛冶道
場」の実践共同体が例に取り上げられました。これらの実践共同体では、匠と呼ばれる先生が実践を通じて未熟な技能者を教育しつつ、コミュニティーを形成し成果をあげているとのことでした。
この例を参考に「ディスカッション2」として以下のテーマでグループ討議が行われました。
「実践共同体を社外に形成することでどのようなメリットとディメリットがあるか」
グループ討議の結果をまとめると以下のとおりになりました。
メリットとして考えられることは、
・特定の技能を地域のブランドに仕立て上げることができる
・知的財産のどの部分をオーブンにして、一方、クローズにする部分をどこにするかを推し量ることができる
・今まで見えていた事実が異なって見える
・ポジションパワーが使えず、素直に話し合うことができる
などの意見が出されました。
一方、デメリットとしては、
・職能別組合が形成されるのではないか
・情報管理に関して社員の"暴走"を食い止めるのが難しい
・時間的には自己犠牲が強いられるのでないか
などの意見が出されました。
松本先生からは、「社外の実践共同体に参加することで"違う人生"を歩むことができる。また、自分たちの地図を変えることができる。」とのコメントがありました。
地域で実践共同体を形成して学ぶ
「日本公文教育研究会」における実践共同体が例として取り上げられました。公文では地域の主婦が教える立場になることが多く、その人たちの学びの場として実践共同体が形成されています。その実践共同体は重層的な形態を持ち、いろいろな場面で学ぶことができるとのことでした。この例を参考に「ディスカッション3」として以下のテーマでグルー
プ討議が行われました。
「「学会」の意義について考える。「学会」を作ることにはどのような意義があるの
か。」
グループ討議の結果をまとめると以下のとおりになりました。
・「学会」は研究者の成果の発表の場として機能している
・定説づくりに寄与している
・「学会」を通じて周辺知識を得ることができる
・質問をすることで研究のレベルを高めることができる
・ネットワークづくりができる
・研究者と外部の人間とを結びつけることができる
などの意見が出されました。松本先生からは、「人とのつながりに枠をはめることで創造性が豊かになる。「学会」から「学会」が生まれる。集団での学習によりローカルに孤立している人を結びつけ学習を促進することができる。パラレル・キャリアを積むことができる。」とのコメントがありました。
松本先生から最後にまとめとして、「組織」「個人」「実践共同体」の3者間の学ぶ対象の位置づけを説明していただきました。
「所属する組織から学べること」&「自分で学ぶこと」&「学びたいことを学ぶための実践共同体」
松本先生、"ほんとうに"お疲れさまでした。
開催日 | 2012年7月21日 (土) 14:00~17:00 |
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学習テーマ | 実践共同体の構築-現場での自立的な学びを考える |
学習目標 | 実践共同体の構築事例を学び、学習を進める実践共同体の運営にはどのようなことが必要なのかを自分の言葉で説明できるようになる。 |
講 師 | 関西学院大学 商学部 教授 松本雄一氏 |
会 場 | 明治大学 駿河台キャンパス 紫紺館 S4会議室 |
定 員 | 35名 ※最低催行人数5名。 開催1週間前までに、お申込人数が最低催行数に満たない場合は、中止とさせていただきます。予めご了承ください。 |
参加費 | 会員:¥2,000-(税込) 非会員:¥8,000-(税込) |
開催概要 | 実践共同体(communities of practice)とは、関心を共有する人々が知識や実践を共有し深めていくための自主的に構築されたコミュニティのことです。 今回ご紹介する国内の実践共同体事例では、多くの人々が自発的に学びの場を形成し、活発に学んでいらっしゃいます。現場での自立的な学びは、それ自体有用な知識を生み出す刺激的な場であるとともに、その共同体での活動が、モティベーションの向上やネットワークの形成、キャリアデザインの促進など、さまざまな副産物を生み出しています。 本わ談会では、実践共同体とその活動が生み出す副産物や調査事例を紹介します。 ■写真等記録情報の使用許諾のお願い |
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