2010年6月26日 (土)開催 | 基盤教育研究分科会

人材開発白書2010‐他者との"かかわり"が個人を成長させる(事例研究編)

■実施報告(HRDM会員 坪内弘毅)

 本日のトピックわ談会は、2009年に引き続き、富士ゼロックス総合教育研究所研究室室長の坂本正明さんに、「他人との"かかわり"と個人の成長、特に、企業の永続的な成長に欠かせないとされる若手・中堅社員の成長との関係」について講演いただきました。
 2009年の講演が定量調査(人材開発白書2009)に基づいた分析を中心に解説していただいたのに対し、今回は定量調査(人材開発白書2009)と定性調査(人材開発白書2010)から得られた知見について解説いただきました。


●前半(人材開発白書2009)

 社会人の能力開発の7割は業務経験によってもたらされるとの研究結果が得られています。また、ハーバード大学の研究結果によると、投資銀行の若手アナリ ストのパフォーマンスを転職前後で比較した際、多くが転職先でパフォーマンスを落としているという報告がされています。しかし、転職前と同じパフォーマン スを出せた者も見つかりました。彼等に共通する特徴は、チーム単位で移籍した人たちでした。一匹狼のアナリストでも能力発揮には周囲の環境(支援)が大事 ということです。
 今回の講演の前半では、若手・中堅社員が業務経験を通じて成長する際に重要な要素となる、「周囲の環境(他者との"かかわり")」について掘り下げを行いました。

1. 若手・中堅社員にとって大切な"かかわり"とは

 若手・中堅社員(28~35歳)は上司から業務支援を、同僚から精神的支援を、部下・後輩から内省支援を得ることで成長感を得ているという調査結果が得 られています。しかし、人員削減、機能分化、専門分化、フラット化等の影響を受けた結果、職場メンバから十分な支援を得られない、そもそも職場メンバが存 在しない、という方向に職場が変化する傾向にあります。人材開発の場として職場を捉え直す必要がありそうです。

2. 若手・中堅社員が成長感を認識する6つの能力

 若手・中堅社員が自分自身の成長を実感する能力向上は以下の6種類に分類でき、特に①業務能力が向上したときに強く感じます。

  ① 業務能力の向上
  ② 他部門理解の促進
  ③ 部門間調整力の向上
  ④ 視野の拡大
  ⑤ 自己理解の促進
  ⑥ タフネスの向上

 ただし、能力開発のための支援は業務支援だけでなく、内省支援も同時に行うことが重要です。

3. どのような組織が良い"かかわり"をはぐくむのか

 上司は直接的な支援を行うより、部下同士が相互学習を進められる環境、業務や将来について語り合える環境を職場に作り出すことが重要な働きかけです。各 社員が他の職場メンバから多くの支援を得られる仕組み("かかわり"を通した成長の場)を整備することで、若手・中堅社員の高い成長感を実現することがで きます。
上司だけががんばる組織では、部下は成長しないのです。


●後半(人材開発白書2010)

 前述のとおり、若手・中堅社員が育つには、上司・同僚・部下・後輩から支援を得られる環境の整備が非常に大事です。しかし、人員削減、機能分化、専門分 化、フラット化等が進むことにより、職場の他のメンバから十分な支援を得られる職場は少なくなりつつあります。講演の後半では、現場が中心になって若手・ 中堅社員を育成する環境を整えていった大手家電メーカーの取り組みを紹介していただきました(部署名、個人名等はすべて仮名です)。この育成の取り組みは 人事からの指示で行われたものではなく営業部門の自主的な活動です。


1. 国内総括部の取り組み

 デバイス営業本部の国内総括部は、外部・内部環境の変化への対応が遅れ、若手・中堅社員の営業力が低下していました。そこで新たな統括部長が抜擢され、組織改革を任されました。総括部単位の主な取り組みは下記のとおりです。
   部内の上級管理職への、改革に対する働きかけ・根回しを行う
   社員同士の相互理解を促進する場を設ける
    (各社員の個人目標共有による共通話題の提供、組織横断懇親会開催など)
   営業の理解を促進するワークショップや、失敗経験とその教訓を共有するワークショップを開催する

2. A社営業部グループの取り組み(A社...顧客名)

 国内総括部A社営業グループは業界チーム間の交流がほとんどなされておらず、A社からの複雑な要求に対応できなくなっていました。チームの垣根を越えた提案ができるようになるため、下記のような取り組みがなされました。
   一つのチームだけでは対応できない課題をグループ長からわざと投げかける
   XYZ活動(業界枠・製品枠を取り払って提案を検討する場)を実施する

3. 上司からのマネジメント(個人単位の取り組み)

若手を成長させるために、上司が行った取り組みは下記のとおりです。
   後輩を指導させる(マネジメント職に就く前から指導の経験を積ませる)
   業務経験を通じて育成をする(顧客への納品トラブルを調整させる)
   失敗体験の振り返りを支援する(再現性のある教訓を自分で引き出せるまで考えさせる)

4. まとめ

○ 取り組みの成果は大きく次の3点です。
  ① 営業グループの枠・世代を超えて学び合う風土が醸成された
  ② チームの枠を越えて事業成果に結びつく具体的な協力が進んだ
  ③ 若手・中堅社員が経験から学ぶことができるようになった

○ この取り組みが成果を出せた要因は、下記の5点と考えられます。
  ① メンバが意味を見いだせる"かかわり"(XYZ活動等)をデザインし、メンバの問題意識を組織目標に向けさせた
  ② メンバが互いを理解する土壌(各社員の個人目標共有等)を用意した
  ③ 改革を促進するリーダー役と、現状把握や根回し等を行う参謀役の連携体制を敷けた
  ④ 経験から得られた教訓を共有した
  ⑤ 部下が教訓を得るための振り返りを上司が支援した

○ 個人的には、業務と育成がバラバラになっているケースが多い中、育成の仕組みがきれいに業務の中に取り込まれて機能していることに感銘を受けました。

5. ディスカッション

 本ケースの取り組みがうまくいった理由として、失敗を許す風土の存在、問題点を共有し組織を一体化する努力(管理職が毎日飲み会を開催)、危機感の醸 成、適切な参謀役の配置等があったのではないか、と意見が出されました。部下の指導(教訓を引き出す支援)について上司は誘導をしたかという問いに対して は、部下の成長度合いによって調整していたのだろう(新人→少しヒントを出す、中堅→全部自分で考えさせる)とのことでした。また、上記の取り組みはすべ て勤務時間内(昼休みも含めて)に実施されたことに対して驚きの声が上がりました。

 私としては、「他人を信頼することができ、かつ自分から相手に歩み寄っていける者(≒会社の中で良い手本を見つけられた者)が大きく成長できる傾向にあ る」という坂本さんの言葉が印象に残りました。また今回の事例からは、現場の工夫次第で効率的な教育環境を整えることができる、という大きな気付きを得る ことができました。一方、相当数の企業で将来会社を支える若手・中堅社員の教育が十分になされていない現状については、不安や憤りを覚えます。


●懇親会

 会場近くの中華料理店(飲み放題だけでなく食べ放題でもあった)で懇親会を行いました。そこで今回とりあげたケース以外の定性分析結果についても坂本さ んから教えていただき、「会社の上層部がしっかりしていなくても、強い現場が存在するのはなぜだろうか」と議論が盛り上がりました。
 他にも、日本企業は製品のガラパゴス化にどう対処すべきか、日本企業がiPadのような製品を市場に投入できなかったのはなぜか等の話題が取り上げられ、あっという間の3時間(懇親会)でした。



開催日 2010年6月26日 (土) 13:00~17:20
学習テーマ

人材開発白書2010‐他者との“かかわり”が個人を成長させる(事例研究編)

講 師 富士ゼロックス総合教育研究所 研究室 室長/坂本雅明氏