2010年10月16日 (土)開催 | 基盤教育研究分科会

「熟達」の理論・仕組みを理解する(第4回)

ビジネス人材育成への「熟達」応用に、膨らむ期待

 

 シリーズ分科会「『熟達』の理論・仕組みを理解する」は10月16日に最終回となる第4回を迎えた。
これまでの講義のまとめ、受講者による「熟達に関する持論」の発表などが展開された分科会をレポートする。
(リクルートワークス研究所 五嶋正風)


【これまでの講義を振り返る】
 まず、講師のリクルートワークス研究所主任研究員、笠井恵美氏がこれまでの3回の講義内容を振り返った。
熟達とは心理学の概念で、チェス、バイオリン、ピアノなどの習熟を中心に研究が進められてきた。

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笠井氏は熟達を、少数の特別な者の有能さを指す言葉ではなく、誰でも充分に練習をすればある程度の成果をあげることができ、らに深めていくことのできるものを指す」と説明する。

笠井氏は『サービス・プロフェッショナル』という著書で、この概念をビジネス分野でサービスに携わるプロフェッショナルの熟達プロセス解明に応用した研究を報告している。今回のシリーズ分科会にも、熟達の概念や理論をビジネスパーソンの育成や教育に応用していこうという狙いが込められている。

笠井氏はビジネス分野での熟達の条件として

1.熟達は領域固有のもの(例えば同じIT業界でも営業担当者の熟達とエンジニアの熟達は異質)
2.熟達に至るまでに、時間がかかる
3.熟達は課題解決の積み重ね
4.熟達には内発的動機が重要
の4点を挙げている。

またサービス・プロフェッショナルの育成にすぐれた仕組みをもっている企業や組織を研究した結果、「熟達者への道の5つのポイント」として

1.プロになるには最低でも10年かかる。
2.人と人を"つなぐ"技術を磨いている
3.正解のない世界だからこそ学びあう
4.現場を離れ、内省する時間をもつ
5.その仕事ならではの経験にも注目する
が見いだせることを示した。


【2:6:2の、6の熟達をどうしていくか】
 続いてこれまで3回の講義を振り返り、受講者が思いや感想を述べた。
「グローバル化の影響などで環境変化が激しい中、どう熟達への主破離を組み立てていくかが問題」
「社員が2:6:2に分かれるとするなら、真ん中の6の人たちの熟達の道筋を示していくことが重要では」
「わが社での熟達について会社で話し合ってみたが、どんな状態を目指すのか、意見がバラバラだった」
といった声が寄せられた。

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【シネコンの熟達プロセスとは】
 最後に、これまでの講義も踏まえつつ、熟達に関する自分なりの『持論』を披露するというテーマで2人の受講者が発表した。

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シネマコンプレックス(劇場)を運営するユナイテッド・シネマの人材開発担当者、内橋洋美氏は、劇場のサービススタッフが
支配人へと熟達する課程について発表した。
同社は従業員1300人のうち、約140人の正社員を除く大半がアルバイト、契約社員などの非正規従業員で、彼らが現場のサービスの多くを担っている。
ほとんどの人が学生アルバイトで仕事を始め、切符のもぎり、売店、切符売り場など劇場の接客サービス機能を一通り経験する。
そして能力や意欲に応じてパートアルバイトのまとめ役のチームリーダー→契約社員マネジャー→正社員マネジャー→一つの劇場の運営を任される支配人とステップアップしていく。
同社はアルバイトでも「売店だけ、切符売り場だけ担当」という採用手法や勤務シフトはとらず、接客現場にあるすべてのサービス機能の仕事を担えるよう育成する。
また末端のアルバイトまでサービス改善の提案や工夫を求める点にも特徴がある。
「大学一年でバイトを始め、支配人になるのは概ね30代はじめで、10年ちょっとかかる」と、内橋氏は「プロになるには最低でも10年」という笠井氏の考えとの符合を指摘した。


【「峡谷」を乗り越える人の3大特徴】
 内橋氏はこうした劇場での熟達プロセスには、スタッフからチームリーダー、チームリーダーからマネジャー、マネジャーから支配人への昇格の前後に「峡谷」があると指摘する。そこでつまづいたり伸び悩んだりする人と、うまく乗り越えていく人に分かれるというのだ。
その上で峡谷を乗り越えられる人の3つの特徴を挙げた。
第1に「ありたい自分像」「こんな劇場にしたい」「こんなサービスを提供したい」など、「強い問題意識」をもっていること。
第2に「できる、できない」ではなく「やる、やらない」で物事を捉える「とりあえず、やってみよう精神」をもっていること。
第3に強い問題意識とやってみよう精神で物事に取り組んだ結果、業績を残すだけでなく強烈なエピソードも生んで「記録も、記憶も残す人」になることだ。
こうして社内に記録と記憶で強い印象を残すことは、仕事で直属上司と意見が合わなかったり衝突したりした際、
「あいつのいうことならやらせてみよう」という上司以外からの支援を生むことにつながる。
こういう状態を内橋氏は「組織内に人的セーフティーネットを保有している」と説明。
同社の劇場での熟達プロセスには、笠井氏の挙げる熟達の4条件に、この人的セーフティーネット保有を加えて5条件があることを「持論」として発表した。


【熟達に必要な組織を組み合わせる】
 日立総合経営研修所の柳美里氏は、実務経験や現場での学んだことの実践、HRDM、学会、大学院など会社以外の組織に「旅に出る」ことなどを通じた、自身の「職業人の学びの専門家」としての熟達を振り返った。

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所属した組織にはそれぞれ特徴や限界があるから、「熟達に必要なものを提供してくれる組織を複数組み合わせて、自らの熟達の場をつくる必要がある」と指摘。

熟達の持論として
「自分の熟達の方向性を最初は漠然としていてもよいので自分で決めること」
「何かを捨てなくてはならないかもしれないと覚悟すること」
「制約がある環境や状況でも、限られた範囲内なりに自ら次を選択すること」
の3点を挙げた。

 

 ピアノやチェス、バイオリンなど、もともとビジネスとは縁遠そうな分野で研究が進んできた熟達という概念だが、
最後に2人の受講者がビジネスに絡めた視点で熟達についての持論を披露するなど、ビジネス分野での育成や教育への応用に関して、
今後の展開に期待がふくらむシリーズ分科会であった。

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レポート報告:リクルートワークス研究所 五嶋正風

開催日 2010年10月16日 (土) 14:00~18:00
学習テーマ

まとめ 熟達の魅力 ~自分が変わる面白さ・周りが変わる面白さ

会 場

明治大学 駿河台校舎/紫紺館3階 S4会議室

参加費 会 員/3,000円  非会員/10,000円 ※ 全4回同時お申込みの場合 会 員/10,000円  非会員/35,000円
開催概要

●整 理
熟達の魅力 ~自分が変わる面白さ・周りが変わる面白さ
今まで3回を通じで話されたこと&残っている問題の確認

●発 表
希望者による発表(案1~3のテーマのどれかを選択)と、議論を予定。

※発表1人×15分+質疑応答・コメント・議論30分
[発表案1]
自分自身のこれまでの熟達・これからの熟達 ~自らの経験をもとに持論

[発表案2]
スキルの熟達・関係性の熟達・人間性の熟達について
~自らの経験をもとに持論

[発表案3]
組織における熟達の限界と効用~自らの経験やリサーチ結果をもとに持論


■書籍リスト■
本分科会の参考文献として、以下の書籍を推奨致します。ご参加予定の方は、各人でご購入いただきご一読ください。本分科会で扱う「熟達」に関する世界観や分科会での学びを深めるための前提知識として役立ちます。

1)「無気力の心理学-やりがいの条件」 波多野誼余夫、稲垣佳世子 中公新書 ¥660-(税別)
2)「サービス・プロフェッショナル」 笠井恵美 プレジデント社 ¥1,500-(税別)

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※4回同時申込の場合は、第1回目の開催時に全額をお支払いください。

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 ・開催6日以前のキャンセルは、参加料の0%
 ・開催5日前~3日前のキャンセル料は、参加料の50%
 ・開催2日前以降のキャンセル料は、参加料の100%
 ・連絡なしの不参加は、参加料の100%

■「4回同時申込」の参加費お支払いとキャンセルについて
 4回同時申込の方は第1回開催時に全額お支払いください。
 なお途中欠席がありましても未参加分の払戻は致しませんので、予めご了承ください。