2010年7月31日 (土)開催 | 基盤教育研究分科会

「熟達」の理論・仕組みを理解する(第2回)


■実施報告

こんにちは、堤宇一@人材育成マネジメント研究会です。
6月よりスタートいたしましたシリーズ分科会「熟達」の第2回を開催いたしました。今回のテーマは「よく考えられた練習」です。「よく考えられた練習」は、熟達研究の中心的な課題の一つです。
どのような努力の違いが高い成果をあげる人とそうでない人に分けていくのか。
どれぐらいの量や時間の練習をやると熟達の果実を手にすることが出来るのか。
熟達の研究者でなくても、とても興味のあるテーマですね。
研究成果の知見を、我々の実務フィールドである産業人人材育成の場でどう応用するかについてグループ単位、全体で笠井さんのファシリテーションによって議論いたしました。
今回も興味津々な意見や持論、アイデアが沢山発言されていました。

【よく考えられた練習の特徴と位置づけ】
熟達研究の大御所であるエリクソンは、よく考えられた練習の特徴を4点挙げています。
課題が適度に難しく、明確である
学習者の既存の知識を組み込み設計されている(既に知っている、出来ることを踏まえ、少し高度なことに挑戦するように仕組まれているということかなぁ) 学習者が即座に有用なフィードバックを得られる
類似の課題を反復することが出来、誤りを訂正する機会がある

「少し高度で挑戦意欲が沸き、上手くいったかどうかのフィードバックが即座に得られ、納得いくまで反復練習が出来るような学習環境」を良く考えられた練習だといっているのですね。
スポーツの練習や楽器のお稽古などは、まさしくピッタリ。当たり前すぎるぐらい当たり前。我々はこのようなことを趣味の世界などで知らず知らずに実行していますよね。
ただ、実際の人材育成のシーンで実行しているでしょうか? 職場ではあんまりフィードバックしていないように思います。反省です。

次に、よく考えられた練習の位置づけです。「仕事」「遊び」「よく考えられた練習」の対比で見ていきましょう。
仕事:
仕事は成果を出すことが求められ、時間、コストといった制約やプレッシャーが大きい。仕事も学習機会の一つであるがスキルや知識を最大化するための練習とは程遠い。

遊び:
基本的には明示的な目標は無く、本質的に楽しいもの。遊びは注意を拡散する傾向が強い。

よく考えられた練習:
パフォーマンスを向上させるために特別に企画された活動。高度に構造化された活動で努力を要し、本質的には楽しいものではない。練習のためのコストも発生する。

仕事は練習の場ではなく成果を出す「本番」の場です。しかし、そこからでも学ばせようと思うなら、目的を明示(何のためにやっているのか)し、メンバーや 部下の仕事が終わったら出来具合をフィードバック(成果基準を示しながら評価)し、自分で省察させるように指導すればOJTに応用できそうだなぁと感じま した。

でも部下の仕事の中身が分からなかったらどうしよう。新たな課題です。

また、とても面白く感じたのは、練習は「やっぱり辛い」という認識です。
でも、人は何故そんな辛いことを続けていくことが出来るのでしょうか。好奇心とか効力感といったモチベーションが大切な要素であることを今更ながらに感じました。
イチロウだって辛いし、真央ちゃんだって、羽生名人だって辛いんだ。なぜか少し安心。

【グループ&全体討議】
参加者人身の実体験として上司の仕事アサインでしびれた経験を披露していただきました。ある企業から依頼された大規模の能力開発提案を依頼されたときの実話。


最初に上司が今回のプロジェクトの全体像を示し、提案の考え方のヒントを指示。それを基に提案書作成業務を指示。提案書を上司に見せ、それをつき返され、 何度何度も修正しようやく完成。そのとき上司は、上司なりのアウトプットを提示して提案趣旨を説明。上司がどう考え、このアウトプットを完成させたか、そ の思考のプロセスを披露してくれた。

難易度の高い意味のある業務を部下に指示、ヒントだけを与え、部下が自分自身で必死に考えるように突き放す(課題が適度に難しく、明確である)。
完成するまで答えを教えずフィードバックを繰り返す(学習者の既存の知識を組み込み設計されている、学習者が即座に有用なフィードバックを得られる、類似の課題を反復することが出来、誤りを訂正する機会がある)。
成果を出した暁には、上司なりに考えた提案書と思考プロセス説明し、外的な基準を用いて省察を促す。
よく考えられた練習の特徴に当てはまりますね。

現実の仕事では、この事例のように本人にとって、練習であることが全く分からない。上司は練習させるつもりでアサインしているものの、当の本人は全く分からない状態であるということです。

ここで面白いのは、何度も何度も繰り返させられ、大切な業務かどうかも分からない中で、部下は上司を信じてやるしかないという現実です。
そうなると上司と部下との関係性がとても重要な要素になってくる訳です。
意味ある業務や能力開発として有効な業務のアサイン権限は上司が有しており、部下はやりたい仕事を自ら獲得できない(しづらい)というハンデを負う中で、熟達を期待されている訳ですねぇ。

次回の開催は、2010年9月11日(土)です。「組織における熟達の限界と効用」というテーマでお送りいたします。
人材育成という同じ業界に属していても、「教育ベンダー」という組織の中で求められる専門性と「企業内の人材育成部門」の中で求められる専門性は異なります。堤自身の体験をお話し、組織の違いに見られる熟達観の違いをみんなで考えていきたいと思います。

(報告:HRDM副理事 堤宇一)



開催日 2010年7月31日 (土) 13:00~17:20
学習テーマ

理論2 熟達を促す、よく考えられた練習とは?

講 師 株式会社リクルート ワークス研究所 主任研究員/笠井恵美氏
会 場

明治大学 駿河台校舎 紫紺館 3階 S4会議室