2009年11月21日 (土)開催 | 基盤教育研究分科会

新しい人材育成業務を目指して、自らをリードする社員を支援する自立型能力開発の提案

テーマ 新しい人材育成業務を目指して、自らをリードする社員を支援する自立型能力開発の提案
開催日時 2009年11月21日(土)/14:00~17:00
会 場 明治大学 駿河台校舎 紫紺館
参加者 11名
講 師 アズスコープ有限責任事業組合
キャリアコンサルタント(アズスコープLLP) 味岡律子氏
ナビゲーター 堤 宇一 人材育成マネジメント研究会




■実施報告 (HRDM 会員 坪内弘毅)

今回のわ談会は、日頃からHRDMのサポートスタッフとして活躍頂いているキャリアコンサルタントの味岡さんに新しい人材育成業務を目指して「自らをリー ドする社員を支援する自立型能力開発」のテーマで講演をして頂きました。多くの企業が課題として取り組んでいる自律的な個人のキャリア開発活動に対して、 具体的な事例を踏まえて解説をして頂きました。本講座の目的と狙いは、以下の通りです。

<目的>
 ・自律的な個人のキャリア開発活動が及ぼす企業の能力開発活動への影響を考える

<狙い>
 ・自律的な個人のキャリア活動を知る
 ・自律的な個人のキャリア形成のプロセスを企業の能力開発施策に活かすヒントを得る

私自身、自分自身のキャリアに対して日頃から問題意識を持っている部分もあり、自分ごととして非常に興味のある内容でした。


●企業の人事に対する考え方の推移(堤さんによるオリエンテーション)

企業を取り巻く能力開発の現状は、昨今凄まじい進化を遂げております。まずその点に関して、堤さんが簡単に解説をするオリテから味岡さんへとパートが引き継がれるスタートで始まりました。堤さんのオリテの内容を簡単にご説明させて頂きます。

堤さんによると、人材を指し示す概念として大きく以下の変化が起きているという。

人事労務管理 ⇒ HRM (Human Resource Management) ⇒ HCM (Human Capital Management)

従業員をいわゆるコストして捉える従業員観(人事労務管理)から、少しずつ経営ゴールを達成すべく、従業員ひとりひとりのコンピテンシーやパフォーマンス に着目するHRM、そして現在ではHCMを基本的な考え方として長期的な人材育成を見据えた上で、個人と組織がどうあるべききか、そして人的資本としてど のように投資対象として考えていくかが主流になってきているとのことです。

●企業の能力開発の現状

さて、早速味岡さんのパートに移り、企業の能力開発の現状に対して解説をして頂きました。

大きなポイントとしては、従来企業が終身雇用の枠組みの中で個人の生涯を保証してきた時代が90年代のバブル崩壊を機に、企業が個人の生涯を保障すること が難しいと変化してきた企業の雇用観の変化があると指摘しております。その結果、個人の将来は長期的に企業が示す(=キャリアパスを企業が示す)という時 代から、個人の将来を企業も直接口には出さないものの、個人の将来を会社はもう示していけないという時代へと変化してきております。

そのような企業を取り巻く環境の変化が起点となり、個人主導の能力開発が進むようになり、「誰かが将来を示してくれるのを待っている」という状態から「自分のキャリアのリーダーは自分」とキャリアデザインの主体が企業から個人へと移管するようになったという。

興味深い考察であり、とても納得感があります。私の身近な企業の事例に照らし合わせてご紹介させていただきますと、従来店長のポストをインセンティブとし て掲げてきていたあるサービス業の会社が、経営環境の変化によって従来の店舗を採算性の観点でスクラップ&ビルドを進めた結果、店舗数の削減を余儀なくさ れ、それにより店長ポストを失う者が出ることに加えて、予定ではそろそろ店長に就任できると期待感を持って日々の業務に励んでいた従業員が店長のポストの 喪失を原因として、モチベーションを大きく下げているとのことです。

企業としては、それまで店長のポストという分かりやすいインセンティブを成長意欲のドライバーとして活用してきたわけですが、経営環境の変化から、その成長戦略そのものの見直しがかかり、店長ポストの付与という形でインセンティブを提供できなくなったということでしょう。


●キャリアの考え方

キャリアが組織から与えられるものではなく、自律的に導いていくという前提に立った場合、そのキーは何になるのでしょうか?そもそもワークモチベーション は一人ひとり異なり、その内発的なインセンティブをいかにして引きだしていくかというのが、今回の講座の基本的な考え方になります。

それを体感すべく、「ワークモチベーション」を考えるワークを行いました。
アプローチとしては、一人ひとりが「何にモチベーションをUPしますか?」という質問からワークモチベーション要因を洗い出し、絞込みを進めるというものです。

その結果、何を重要と思うか?という、いわゆる自身の根底にある価値観を抽出し、自分の心地の良い価値観(体感覚)と自分の特性を理解、自分の志向性を考察することへとつなげていきます。

個人のワークとして、一人ひとりの価値観・特性を知るとともに、全体発表を通じて、個人の多様性を知る。これはとても興味深いワークで、皆の"好きなポイント"が違うと感じたことが印象的でした。

ちなみに私の価値観は、①スピード ②クリエイト ③ダイナミック でした! ワークをやってみて、気付いたことが実はこうありたいと思うことと、現実が乖離していることでした・・・もっと仕事が早く、精度高くなるようになればいいな・・・(笑)


●あるキャリアウーマンのキャリアを辿る!(事例紹介)

その後、味岡先生はあるキャリアウーマンのキャリアの推移を価値観・特性の推移と照らし合わせながら、モチベーショングラフの手法を用いて、相関を解説し て頂きました。実は最後にオチとしては、そのキャリアウーマンは味岡先生であると分かるのですが、20代の頃に軸に何を考えていたのか、そして人生のター ニングポイントでは、何を感じていたのかが一目で分かる内容でした。

論語でも、「40にして惑わず」といいますが、20代、30代と少しずつ価値観を変化させていきながら、自分の軸とするライフワークにたどり着いていく(独立する)ことを説明されていたことが印象的でした。


●自律的なキャリア開発のプロセス

講座の終盤では、自律的なキャリア開発のプロセス、具体的に解説して頂きました。概要は、以下の通りです。

<自律的なキャリア開発のプロセス>
① 自分の特性理解
② ありたい姿のイメージ
③ 過去の積上げを整理
④ 現環境の整理
⑤ 活動プランの作成

特に①が大事であることを味岡先生は指摘しており、特に周囲のフィードバックや内省、アセスメント等を通じて、自分自身の本質を理解していくことが重要で あり、それについての過去の自分自身の選択にヒントがあるという。エドガー・シャイン先生のキャリア・アンカーがまさしくこの概念に近いのでは感じま す。(※キャリア・アンカーとは、どれが自分のアンカーなのかについて、無理にでも選択を迫られた場合、どうしてもあきらめたり捨てたりできないひとつの 拠り所であると定義されます。) 自分自身を本当に知っているのは、恐らく自分自身だけなのでしょうが、自分自身でも知らない自分というものを、恐らくひ とりひとりが持っているのでしょう。ここを探してく作業は、非常に楽しい側面もあれば、自分の見たくない自分に目を向けなくてはならない部分もあるため、 自分自身を正しく理解するということはなかなか難しいと私は感じております。ただ、自分自身が幸せな人生を送っていくためには、自分を見つめ直し、自分の 特性にあったキャリアプランを描くことが重要になってくるのではないかと感じました。


●三国志の曹操の言葉をご紹介(キャリア開発の参考に・・・)

私がこの講座に参加して、突然ぱっと感じたのが、私の大好きな三国志の曹操(※後漢の丞相・魏王で、三国時代の魏の基礎を作った人物)でした。曹操にまつ わる2つの言葉がぱっと思い浮かんだのです。キャリア開発に関連する部分でもありますので参考になればと思い、紹介させて頂きます。興味のある方は是非読 んでみて下さい。

① 子ハ治世ノ能臣、乱世ノ姦雄ナリ  (許劭)
② 老驥櫪ニ伏スモ志ハ千里ニアリ烈士、暮年壮心已マズ (曹操自らが読んだ詩)

<① ついて>
曹操がまだ若いころのこと。許劭という人物鑑定の名人のもとを訪ねて、「私はどんな人間でしょうか?」と尋ねます。許劭は、はじめ黙ったまま答えようとし ません。「ぜひに」 と曹操が迫り、ようやく口をひらいて許劭が語ったのが、この言葉。曹操は、この言葉で自身を「姦雄」として自己を認識し、後々の三国 志の乱世を駆け抜けていくのです。
今流の人材開発の言葉でいうと、自身のアイデンティティを人物鑑定士に確認し、アイデンティティを付与されたということになると思います。主体的なキャリ ア開発ではないかもしれませんが、ある意味、私は曹操自身が元から自分の特性を深く理解しており、その最終確認を有識者に確認したかったのではないかと感 じております。そして、その際に「まさしく」のアイデンティティを与えられたことで、自分の特性に対して確信を深めたのでは。ある意味、今回味岡先生に講 義して頂いた主体的なキャリア開発のプロセスの ①自分の特性理解 を、実は彼はこの時代からしていたのではないでしょうか?

<②について>
彼は、後漢の丞相・魏王で、三国時代の魏の基礎を作った人物として大成功を収めたということは皆さんご承知の通りだと思いますが、彼がまれに見る勉強家で あったことはそこまで知られておりません。若い頃は、もっぱら「孫子」以下の兵法書を研究し、その奥義を極めたといわれるが、勉強したのは何も兵法書だけ とは限らず、「経書」などの古典や歴史書など、その学問は万般にわたっていました。

勉強ぶりがまた凄まじく、戦陣のなかにあっても、暇があると常にそれらの本をひもといていたといわれるし、晩年になっても、手から本を離さなかったといわれています。文学者、詩人としても一流だった曹操が晩年に詠んだ詩がこれになります。

   老驥櫪ニ伏スモ志ハ千里ニアリ烈士、暮年壮心已マズ 

駿馬は年老いて、馬屋につながれても、志だけは千里のかなたに馳せているもの。それと同じように、男らしい男というのは、年老いた晩年になっても、やらんかなの壮心を失わないものだ、というのです。

これは曹操自身、「かくありたい」と願って読んだ一句であろうと思われますが、曹操とはまさにそういう人物であって、仕事に対しても、勉強に対しても、人一倍チャレンジ精神を燃やして乱世のなかを駆け出していったのです。

今回の講座で触れられていた「かくありたい」というビジョンを持って、自分自身のキャリアを実際に切り拓いていった歴史上の人物の事例として曹操をご紹介させていただきます。


●最後に・・・

今回の講座の目的は、「自律的な個人のキャリア開発活動が及ぼす企業の能力開発活動への影響を考える」ということでしたが、現在の多くの企業の人材が抱え ている課題は、いわゆる曹操の「やらんかなの心意気」「かくありたい強いビジョン」ではないかと私は感じております。もしかしたら、それは個々の先天的な 資質に依存するものなのかもしれませんが、 曹操が許劭から「子ハ治世ノ能臣、乱世ノ姦雄ナリ」とアイデンティティを与えられたことが契機として人生の ターニングポイントを刻んだことは上司のマネジメントに通ずる部分を感じます。そのように部下に使命感や高い目標を掲げ、それこそ一生を切り拓いていくよ うな強いモチベーションを引き出すことのできるマネージャーはどれくらいいるでしょうか?個人に対しては自律的なキャリア開発を指導育成により実現してい く一方で、その成長の方向性を自社の中で具体的に描かかせていくべく、部下に情熱を燃やさせ、高い使命感のもと仕事に取り組ませることのできるマネー ジャー育成が今後も企業に求められていくでしょう。人事部がこういったマネージャー育成の仕掛けを組織の中で実行していくことは効果的な人事施策の切り口 になると思います。
開催日 2009年11月21日 (土)